最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)70号 判決 1966年9月06日
上告人(被告・控訴人) 青柳伊佐美
右訴訟代理人弁護士 秋元九十九
被上告人(原告・被控訴人) 早川正信
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人秋元九十九の上告理由第一点について。
原判決によれば、上告人は昭和三三年二月二七日被上告人にあてて、満期、振出年月日、受取人の各欄を白地とした本件約束手形を振り出したが、昭和三七年一二月一〇日にいたり、被上告人において、満期欄に昭和三七年一二月一四日、振出年月日欄に昭和三三年二月二七日、受取人欄に早川正信と被上告人の氏名を補充して右白地手形を完成したというのであり、原審の右事実認定は、その挙示の証拠関係に照らして、首肯するに足りる。そして、右事実関係のもとにおいては、振出年月日と満期との間に四年以上の期間があったとしても、これをもって異とすべきものではなく、右認定に経験則に反する点は認められない。また、原審の認定が商習慣に違反する旨の論旨は、原審で主張判断を経なかったところである。したがって、論旨は採用することができない。
同第二点について。
<省略>
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)
上告代理人秋元九十九の上告理由
第一点原判決は本件手形に記載の満期日は上告人から与えられていた補充権にもとづき、被上告人が希望する期日を記入したとの事実を確定している、しかし一般中小企業者間に発行する金融手形では満期日と手形振出期日との間には凡そ一ケ月乃至三ケ月前後の開きのあるのが通例で、これは業界の習慣となっている、本件当事者間においても従来度々手形を発行しているが二ケ月以上を越えたことはなかった(乙第一号証の二)、その理由は金融手形の多くが銀行で割引されるのである、ところが、銀行は関係者の信用状態の見通しに困るから長期手形の割引を拒否するようにしている、さて上告人が本件白地手形を被上告人に交付したと仮定し同手形には支払場所として特定銀行を表示している(甲第一号証……福岡相互銀行若松支店)また従来被上告人に渡していた手形も同様であった(乙第一号証の二、本件外額面金一六万円の手形を被上告人は同上銀行で割引している)、されば被上告人が白地の部分を補充するとせば従来の例により適当の満期日を定めるはずである、この点につき被上告人は第一、二審において裁判長の問に対し「一寸でよいから貸してくれと言はれて貸しましたと答えている」事実がある、それにもかかわらず四ケ年以上も先日付を記入した本件手形については何か特別の事情のないかぎり常識では到底考えられない、かかる途方もない長期の満期日を定めた本件手形につき、但し上告人の提出した反証を悉く排斥し僅に被上告本人尋問の結果により、業界に実例を見ないかような手形にもとづき、被上告人の請求を認めた原判決は商習慣にかんする実験則の適用を誤る違法がある。
第二点<以下省略>